イトウ5年越しの回帰06
Vol.1
※はじめに、よく質問されるこのサイト運営に関しては管理している私1人、池田斉により作成しています。
2006年、春イトウの産卵期。例年のごとく開始する「イトウと岩魚2足のわらじ」の活動は単独でのA支庁は聖地とその周辺、それとB支庁に流れる各河川の細部。今年は日数がとれないことで重要P2支庁を含めた7箇所に限定し、残り日数を熊越えの沢で使う予定でいました。ところが予想以上に状況が悪く、特に私が継続して観察をしている聖地、そこらで一番早くに遡上と産卵が行われる支流では期間中前半で確認できず、つづけて周辺の支流、水源を目指すも雄一匹しか見られなかった為、方々各地に場を移し、おまけに通行不能になっている林道を余計に歩かされることになったりと心身ともに厳しい年となりました。なお聖地側の多くでは今年、殆ど’遅れ’は例外としても期待ならず「来ない」まま産卵期が過ぎたことでしょう・・・
5年越しの回帰河川。B支庁管内のとある水系、イトウの産卵を5年前に見たきり、その間4年まったく繁殖を確認していない某所で久し振りの再会、自分としては恩恵を与ることになる!
イトウを求めて2006年の春、産卵期最終が迫る曇り空がつづく頃、車中でカップ麺とビールだけの生活をつづけ、まともに顔を見ていないのも重なり、それもこれまでにない無駄な距離を歩かされたことで精根尽きかけていた。何処の水源も例年になく雪代による増水が繰返される回数が多いにしろ、その域となる水源の残雪が特別多いわけではなく水位も安定し、昼夜ともに気温が一桁と低い間は濁りもなく産卵は十分可能と見られた。
ペアを組んだことのない単独の雄であれば盛んに遡上し、最短であっても1時間以内に一度は水源に留まっているはずで、熟したものなら、それぞれお好みの小部屋「根下に」準備を整えたものが入っているはずなのに聖地に限っては、どうもいつもとは違う?そう考えながら南方へ車を走らせ、気が付くと見込みの無いあの水系に何故だかやって来た。
そこ水源を囲む周辺の山林は伐根が激しく植林すらされていないゴミの散乱する荒れた林道が虫食むように途中まで走り、それによって沢が堰き止められた沼地には水芭蕉、エゾノリュウキンカがすでに花咲き、アツモリソウも枯れ草を押し分け顔を出している。ただ、すでに雪代により出来た溜りの各所では、例年だとエゾアカガエル、エゾサンショウウオが集い産卵をしているはずだが、ここでさえも姿を見せていないのを除くと聖地よりここ周辺は若干、春らいしい雰囲気だった。
水中機材としては新たにレンズ+ポート×2とストロボが増え、ザックに詰め込む荷物が重くなり歩く距離も倍になった。それと羆の痕跡が目立って確認でき、その対策、経路には十分気を付けなければならない。ここの、あそこのは大丈夫だとかという「絶対と安全」は何処にも無いことを胆に銘ずべし。
車止めから目的地まで歩き出すのにだらだらと時間をかけ、長年習慣となっているコーヒー、これはインスタントでもなんんでも良いをガブガブと5杯飲む。平均にして一日10杯以上は飲んでいる。ちなみに私はタバコを吸わない。酒は嗜み程度
若葉が出て間もない柳と、か細い白樺が閑散と立ち並ぶ原野の森をゆっくりと進み、力が入らぬままそこかしこの大木を見つけては樹窟を探しエゾモモンガを。開けた原野の遠くを見渡してはエゾクロテンを思い、今時期でしか感じられない様々な春の息吹を吸い込み先を目指す。
何かに急かされるように辿り着く分岐点、林道から沢が遠ざかる地点に到達した段階で泥濁りがいきなり無くなり、やる気の無いまま道端で堰き止められた溜りでサンショウウオを探す。正直、この時、水源を目指すか止めるか迷った。どうせいったって、でも、どうせ来たんだからとも考えるが、4年間滞っている先へ重たい水中機材などの荷物を背負って難所を踏んで進むのには力が入らない。
まあ、来てなきゃ更に1年+未確認でそれも「成果」だ。それならそれで行者ニンニクなりヤチブキ少々を頂くなりして、下山した後、隣町まで走ればジンギスカンでも手に入れられ、それで体力でも付けば明日の励みになるだろう。そう思い直し気分転換のつもりで、重たい機材だけを笹原に置いてボチボチと歩くことにした。
なんでも下手なうちが面白い写真でも、水中では透明度が全てだ。上から覗いて綺麗でも入ると世界は全然違う。特にイトウが回帰する多くの水系は泥岩石を主とする赤茶けた色をしているので、その一枚を見ただけで何処産かは予想がつく。自然界で写したものなら・・・
ここは周辺の中では最も透明度が高い所だ。もし来ていたらシャッターを押せば一応写るだろう。いろいろとフィールドはあるにせよ、海から川を経て回帰する個体群の生活史こそが全てだと。そうこう思って間もなく、澄んだ流れの柳の根下から、あの薄い真紅色をした尾が飛び出し揺らめいているのが見えた!
疲れがとれた・この時期のイトウが見れなかったら、あまりのショックで寝込むんじゃないかと泣きそうだった″_゛一つ贅沢なことを言うと、カメラを向け顔の正面に回り込むと、ここ産は聖地のアンコウ型と比べ標準顔なのが迫力に欠ける。それと婚姻色も濁った赤なのが特徴的。それでもm前後になればカジカ顔なので劣らない。
イトウの雄、背後からの一枚。ペアを組んでいない単独に近ずくのは大変。尾びれに糸を叩いたことのある切れ込みがあるので一度は誰かに釣られたか?針を咥えたことのある傷だ。産卵域となる源流のあちらこちらでは5年振りに力強い精気が沸き、そこに立ち会えた私は幸運であった。
4年間途絶えていたということは、今年やって来た個体群は大きさからして、およそ7年〜10年前に生まれたものと予想され、孵化して早くとも4年で成熟=孵化率は悪いとしても、空白期間の4年に何があったにせよ普通じゃない。
イトウと岩魚2足のわらじ 北海道のイトウと岩魚 北海道のイトウ 更新履歴 プロフィール 書籍文献紹介 人物紹介 |